太眉とは……
楕円形、三角、四角と形は様々だが、リアルの人間並みまたはそれ以上の太さの立派な眉毛のこと。
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まんが・アニメ界屈指の「太眉キャラ」と言ったら「けいおん!!」のおっとりお嬢様、むぎちゃん。
そのりっぱな眉毛の印象から、「たくあん」などという愛称(?)もあるそうですが……かわいいよね。むぎちゃんが歌ってる「Honey sweet tea time」すごく好き。
上記のサイトさんによると、二次元キャラにおける太眉の印象というのはこんな感じらしい。
- 無知/田舎くさい(イモくさい)/素朴(眉尻下がり気味)
- 男らしい(眉はつり上がっている)
- 動物性
筆者さんによると、太眉キャラは表情が豊かで魅力的だが、美しく整った二次元キャラの中では異質にうつるので、いまいち人気が出にくいとのこと。
私もそんな気はしています。基本的に、アニメや漫画に眉毛が特別太いキャラが出てきたらどうしても、眉毛が気になってしまいます。(しかしむぎちゃんはかわいい)
“歴史的”二次元キャラにおける「太眉」とは?
そんな「異質の存在・太眉」が、あんまり異質でなくなる世界がある。
それが、「歴史まんが」の世界です。
そもそもご先祖様がこれですから……
同じ二次元でも、「歴史まんが」が舞台になると「太眉」の意味は変わってくるのでは?
ということで、個人的には「歴史まんが界のサザエさん」つまり大御所であり、この上ない安定感で子供から大人まで楽しめる学習まんが『少年少女日本の歴史』(小学館)の「おもな登場人物」より太眉キャラをちょっと見てみましょう。
歴史まんがは、作者によって歴史上人物のキャラクターが変わります。そこが魅力でもあるのですが、こういうときには歴史上人物をフラットな目線でキャラクター化している上記のような本がいいかなと思います。
あんまり引用しても著作権的によろしくないと思うので、家にある5巻(貴族のさかえ)から7巻(鎌倉幕府の成立)くらいまでで目立った太眉を。
5巻 貴族のさかえ(平安時代中期・後期)
眉毛的には将門の方がつよめ。
麻呂感+野心家なのをあらわす太眉…?
細眉。差別化で太眉になったんだと思いますが、
紫式部の方を太眉にするの、なんかわかる。
これは正統派太眉。
6巻 源平の戦い(平安時代末期)・7巻 鎌倉幕府の成立(鎌倉時代)
ここから武士が出てきすぎてややこしいので、源氏を中心に見てみましょう。
イケメンですね、さすがタッキー。
源氏の伝統、太眉が戻ってきた!
ほらね、太眉だけでアイドルグループつくれそうなくらい、太眉オンパレードでしょ……?(もちろん普通の眉毛の人もいます)
これだけたくさんの歴史上人物を描き分けるのだから、便宜的に太眉になったキャラもいるでしょう。並べてみたら「太眉だからこういう性格」っていう風に分類するのは難しそう。でも、太眉になりやすいなんらかの傾向はあるはず。
「貴族の太眉」と「武士の太眉」
もうね、武士の太眉は結構わかりやすいんです。間違いなくさきほどの「二次元キャラにおける太眉の印象」で挙げられていた「男らしさ」を表現しているから。
武士とは、男らしいもの。
私見ですが、源氏と平氏を比べた時に源氏の方が太眉率が高かったのは、貴族社会寄りの平氏に比べて「源氏=東国の荒々しい武者」というようなイメージが少なからずあったんじゃないかなと思います。
「二次元キャラにおける太眉の印象」でいうところの「田舎くさい」も含まれていますね(残念ながら中世時代の東国は田舎扱いされてるので……)。私もたぶん源氏と平氏をならべて描く時は、源氏の方の眉毛を太くしそうです。
で、問題は貴族の太眉。
貴族についてのサンプルが少なすぎて、このまんがの奈良時代編とかも参照できたらよかったなぁと思うのですが……とりあえず現時点で出てきた太眉貴族は「紫式部」「藤原兼家」「崇徳天皇(天皇ですが)」。
貴族だからって太眉で描かれているわけでもないし、藤原兼家と崇徳天皇に関しては、そんなに太眉に深い意味がある気はしません。
でも、紫式部の太眉に関しては、太眉の新しい意味合いを感じざるを得ない。
そう、これは、「麻呂眉的な意味での太眉」。
この眉毛!
麻呂らしさ。すなわち雅さ。
私なりに清少納言が細眉で紫式部が太眉だった理由を考えますと、清少納言はキャッチーなエッセーで、ちょっと現代の女性っぽいところがある。対して紫式部は平安絵巻とも評される、重厚で雅やかな物語を書き上げた人です。
ザ・平安の文化と言ったら『源氏物語』。平安時代代表。そういう意味合いを込めて、紫式部の方を麻呂らしい眉毛にしたんじゃないかと思います。
「貴族的太眉」=「下がり眉」の性格
さりげなく眉毛が上がっているか下がっているのかも見てきましたが、そのほとんどが上がっている眉で、下がり眉がめずらしいものだということはおわかりいただけたかと思います。
下がり眉は「紫式部」と「源実朝」だけ。しかも形が似ています。
紫式部は前述のように、平安貴族代表です。
ということは実朝さんの太眉は、源氏名物の「武士の太眉」ではなく、「貴族の太眉」なのではないだろうか。
なぜなら、実朝さんは武士であり鎌倉幕府の三代目将軍だけれど、どっちかっていうと貴族の文化の方が大好きで、貴族寄りの雅やかな暮らしを好んだ貴族っぽい武士だからです。
さらに二人の性格には共通点があります。
上図でセリフにもあるように、紫式部はおとなしく内気な性格(スタイリッシュ細眉の清少納言は社交的で明るい性格)。実朝さんもインドア派で読書大好きなおとなしめな性格です。
上がり太眉は勝気でアグレッシブな性格を表しますが、下がり太眉は真逆。
同じ太眉でも、武士・貴族、それぞれの「らしさ」を強調することになっているのが面白いですね。やはり前掲の太眉の記事のように、太眉は表情を豊かに、いきいきさせる効果があるのでしょう。
さきほどのむぎちゃんの太眉、つまりお嬢様の太眉っていうのは、この「貴族の太眉」の系譜なんじゃないかと思いました。
麻呂眉のイメージも少なからずあると思うんだけど、海外ではどうなんでしょうか。太眉のお金持ちキャラとかいるのかな。このへんも今度調べてみたいですね。
それにしても日本の歴史というのは……なんと(太眉的な意味で)豊かなのでしょう。広めよう、太眉の魅力。
持論:「実朝さんは太眉率が高い」を検証
太眉の記事を書こうと思ったのも、日頃「実朝さんって漫画に出てくる時、太眉率高くない……?」と思っていたからでした。
独断と偏見に満ちてますが、証拠をいくつか挙げてみます。
『新装版まんが百人一首』(平凡社)
太眉度:★★★★★
お手本のような下がり太眉!
でも他のページも見てみたら思ってたより太眉の人多かった。
味わいのあるまんがで百人一首を説明してくれる本、癒しです。
『風恋記』(木原敏江作/小学館文庫)
太眉度:★★★★★
漫画に出てくる実朝さんの中で一番キラキラしている実朝さん。
まあ、他のキャラにも太眉いるけど、その中でもわりと太眉の印象が強い方です。
実朝さんってもともと切ない、かわいそうな人なんですが、この漫画の切なさと言ったらもう……(大好き)。
『マンガ日本の古典16 吾妻鏡(下)』(竹宮恵子作/中央公論新社)
太眉度:★★★☆☆
太眉っちゃあ太眉だけど、周りも結構太眉だったので、そんなに目立たなかった。
とてもよくまとまっていて読みやすいまんがです。
『学習まんが日本の歴史6』(集英社)
太眉度:☆☆☆☆☆
ふ、太眉じゃない、だと……!?
水彩っぽい感じの、あたたかみのある絵柄の歴史まんが。リアルとデフォルメのバランスがいい感じ。
結論:そんなでもなかった
実朝さんは武士と貴族の間にいる人なので、太眉で描かれている場合でも「武士の太眉」として描かれているのか「貴族の太眉」として描かれているのかわからない時が多い。(百人一首においてはたった一人の武士なので、武士的な要素を強調して描かれていることが多い、気がする。)
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