和歌から聞こえる、星の音

冬になると、星空を見上げたくなりますね。
静けさの中で、星たちのきらめきが「音」になって胸に広がるような気がします。

今回は、そんな「星の音」が聞こえてくるような和歌を、水彩イラストとともにお届けします。

しじまの中で聞こえる「星のさざめき」

まずご紹介したいのは……和歌ではないのですが、文部省唱歌「冬の星座」です。

「ものみないこえる しじまの中に
 きらめき揺れつつ 星座はめぐる」
「ほのぼの明かりて 流るる銀河
 オリオン舞い立ち すばるはさざめく

文部省唱歌「冬の星座」

この歌の素敵なのは、夜空という「視覚」の世界に、「音」がさりげなく入り込んでいるところです。

しじま、さざめき ──
星には本来音はありませんが、心が静まり返った時、人は光の揺らぎを「音」として受け取るのかもしれません。

星の声を初めて聞いた夜 ── 建礼門院右京大夫

月をこそ ながめなれしか 星の夜の
深きあはれをこよひ知りぬる

建礼門院右京大夫

建礼門院右京大夫は、平清盛の娘である建礼門院徳子に仕えた女性。
壇ノ浦の戦いで恋人・平資盛を失い、深い悲しみの中を生きていました。

弔いの旅に出かけ、比叡山の麓の宿で横になっていたある夜、ふと見上げた先に月のない星空があり、彼女は驚きます。

「花の紙に、箔をうち散らしたる」 ──
美しい紙に金箔を散らしたような星空。それは、まるで初めて知るような美しさでした。

月の美しさはよく見慣れているけれど、月のない星空に、こんなに「あはれ」があったなんて。

じつは和歌の世界では、星を詠んだ歌は不思議なほど少なく、月を歌ったものが圧倒的に多いのです。
だからこそ、この歌は特別な感じがします。

月のように華やかではなく、ただ静かに、でもたしかに灯る光。
そして傷ついた心に、そっと沁み込むような光。

『星の王子さま』のこんな一節を思い出します。

ぼくは、あの星のなかの一つに住むんだ。
その一つの星のなかで笑うんだ。
だから、きみが夜、空をながめたら、星がみんな笑ってるように見えるだろう。

サン=テグジュペリ『星の王子さま』

右京大夫の心にも、きっとあの夜、空に帰っていった大切な人の声にも似た
星たちの「さざめき」が静かに降りそそいでいたのでしょう。

とどろく天の川 ── 源実朝

天の川 みなわさかまき 行く水の
はやくも秋の 立ちにけるかな

源実朝
実朝様の天の川の歌

こちらは一転して、「轟音」の世界です。

天の川というと、古代中国の七夕伝説では「巨大な河」のイメージでした。
それが万葉の時代に日本へ渡ってくると 、日本の自然観に合わせて、「泡立つ清流」 というイメージへ変化したのだそうです。

実朝公のこの歌も、水の泡がごうごうと渦巻いている激しい天の川を描いています。

大海の 磯もとどろに 寄する波
われてくだけて さけてちるかも

源実朝

この代表歌のように、実朝公は「音のある自然」を生き生きと描く名手。
水泡さかまく天の川もまた、とどろき、泡立ち、流れ急ぐ自然の清流として、心に響いていたのでしょう。

夏から秋へ移る季節のスピード感。
その「時の速さ」に対するとまどいが、勢いのある轟音と重なって胸に迫ります。

星の鼓動を聞く ── 鼓星(つづみぼし)

冬の代表的な星座・オリオン座。
ギリシャ神話では英雄の姿ですが、日本ではその姿形から、「鼓星」と呼ばれることがあります。

さらに、赤いベテルギウスを「平家星」、青白いリゲルを「源氏星」……それぞれの旗の色に見立てて、そう呼ぶ地域も。

ロマンチックでありながら、どこか武士の気配が潜んでいるような夜空の物語です。

ひときわ明るい源平の星たちが、合戦の合間に「ぽんぽん」と鼓を打ち合っている……そんな静かで平和な戦を想像してしまいます。

霜を踏む音 ── 大伴家持

かささぎの 渡せる橋に おく霜の 
白きを見れば 夜ぞ更けにける

大伴家持

七夕といえば夏のイメージですが、元々は秋の季語。
この歌はそこからさらに季節が進み、「冬の七夕の景色」を描いています。

織姫と彦星の逢瀬のために、かささぎが連なって作る「天の川の橋」。
冬の冴え冴えとした星々を、橋に降り積もる白い霜に例えています。

あるいは平城京の御殿の階段に降りた霜ともいわれ、地上と天界の境目が曖昧になる美しい歌です。

凍てつく静けさの中で、七夕ではおなじみのあの二人が寄り添って、橋におりた霜を踏む「さくさく」という音が聞こえてきそうです。

すずなごん

「冬が寒くって本当に良かった」……かささぎの橋に、冬の名ラブソング「スノースマイル」(BUMP OF CHICKEN)をBGMとしてかけたいところです…笑

天空を渡る舟の音 ── 柿本人麻呂

天の海に 雲の波立ち 月の船
星の林に 漕ぎ隠る見ゆ

柿本人麻呂

夜空そのものを「海」として見立てた、スケールの大きな名歌です。

大きな天界の海に、雲は波立ち、星は森のように瞬き、
その中へ月の船がゆっくりと漕ぎ隠れていく。

静かな波の寄せる音、
船が雲をかきわける音、
星々のまたたきがざわめく音……
それらすべてがひとつの雄大な「宇宙の呼吸」として聞こえてくるようです。

自然と心を通わせながら生きていた万葉の人たちは、こんなふうに宇宙のリズムを体全体で感じ取っていたのでしょう。

おわりに

冬の星空からは、
さざめきの音流れる川の音、
霜を踏む音、宇宙の呼吸、
あるいは星の和歌……
さまざまな「声」が聞こえてくるかもしれません。

すずなごん

もし星空を眺めることがあったら、ぜひ耳を澄ませてみてくださいね!

目次