横浜のそごう美術館で7月7日まで開催中の「水木しげる魂の漫画展」にいってきました!
『ゲゲゲの鬼太郎』制作現場に興味津々!
水木しげるさんの人生を追っていくスタイルの展示、やっぱり制作現場の様子が興味深かったです。
元アシスタントさんや編集者さんのインタビュー映像も流れていて、「鬼のような点描が大変だった」とか、面白い求人(上手い人の方が下手な人より給料は高いけど、下手でもそのうちうまくなるから大丈夫)など、当時の雰囲気がよく伝わってきました。
NHK朝の連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」OPでもおなじみの、水木さんが彩色に使っていたヨーグルト瓶入りの「染め粉」(布地を染めるのに使うものらしい)も展示されていました。
この魔法の道具からあの鮮やかな色彩が……!
びっくりしたのは、水木さんの漫画の大きな特徴であるあの細かい背景画。
アシスタントさんがあらかじめいろんな場所の背景を描きカテゴリ別にストック→別に描いたキャラクターの絵を切り抜いて貼り付けて漫画の一コマに
という感じでだいぶシステマチックに作られていたそうです!
あの緻密な画風にして超多作の水木先生、そういう工夫の積み重ねで仕事をこなされていたのですね。
「多忙すぎてご飯をよく味わったことがない、こんなの人の暮らしではない」とぼやいている新聞記事もありました。水木さんもですが奥さんや周りの人も大変そう。。。
「背景」にも「キャラクター」にも水木さんの人生が詰まってる!
水木さんの絵の最大の特徴、それは「緻密な背景の世界」に「シンプルなキャラクター」が存在しているということ。
そのどちらにも水木さんの人生が詰まっています。
水木さんにしか描けない、怖くて綺麗な深い森
漫画家時代より前の20代のころ。戦時中だったため水木さんは軍隊に入り、戦線の激しいニューブリテン島(パプアニューギニア)のラバウルというところに配属になります。
そこで水木さんは片腕を失ったり、マラリアを発症したままジャングルを歩き回ったり、仲間の死を目の当たりにしたりと、凄惨な経験をします。
その一方で島の原住民・トライ族の人々と出会い、親交を深めました。水木さんは戦後またこの集落を訪れ、トライ族の親友のお葬式の喪主をつとめるなど、生涯にわたってこの集落の人々を大切に思っていたみたいです。
日本において仕事で忙しい時にこの集落のことを思い出しては、南方への憧れを持ち続けていたのだそう。
こちらの展覧会のポスターのイラストにもあるように、水木さんは暗くて深い森をたくさん描いています。
妖怪さんたちももちろんですが、木々や植物たちを見ているだけでも飲み込まれそうで、恐ろしいほど。でも、怖いけれど、美しくもある。
日本から遠く離れた南方の地の深い森で、地獄も天国も体験した水木さんだからこそ出せるような迫力があるなと感じました。
愛が詰まった妖怪たち
水木さんと仕事をされてた方もインタビューで言われてましたが、水木さんの妖怪は本当に生き生きしていますね。
妖怪があまりにもリアルなんで、てっきり昔からいる妖怪だと思ったら、水木さんの創作だったっていうパターンもあるそう。
なんでそんなに生き生きしているのか、展示を見てわかった気がします。
- 圧倒的な「好き」の力
- にじみでる水木さんの人柄
- 妖怪からも愛されている(マジ)
一個ずつ見ていきましょう!
圧倒的な「好き」の力
もう、これに尽きます。本当に妖怪が大好きなのが伝わってきます。
漫画で得た原稿料の半分を研究のための書籍代にあてたこともあるそうです。
頭が下がります……
水木さんは妖怪だけでなくて、世界の奇人変人や死後の世界にも並々ならぬ興味と情熱を注いでいました。
先ほどの森のような自然も大好きでしたし、虫も大好きで絵本を作っていたほど。
これらをざっくりまとめてみると、水木さんは「日陰・暗闇の世界に生きるもの」が好きだったんじゃないかなと思いました。
「ゲゲゲの女房」で「見えんけど、おる。」という名台詞がありましたが、暗闇の世界に目を凝らせば、普段は気づかないような、でもものすごく面白い世界が広がっている。
現代はすっかりどこもかしこも明るくなってしまいましたが(すごく便利だけどね)、昔の家にはもっと隅っこの方に暗がりがありましたよね。
「となりのトトロ」のまっくろくろすけが潜んでいるような、何があるのかわからない暗闇。
私だったら、そんな得体の知れない暗闇は大嫌いなGから始まるあの虫とかがいそうだから明かりで照らしてしまいます。変な音がしようものなら血眼でその音の元を探すでしょう。
でも、そういう何があるのかわからない暗闇や自然をそのまま置いておいて、変な音とか、不思議な現象が起きても、解明しようとはせずに「妖怪のしわざ」ってことにしてみる。
なんだか、そっちの方が心が豊かで、ロマンがあるような気がしてきました。(平和じゃないとできないことですけど……)(それでもやっぱりGは大嫌いだけど……)
水木さんがトライ族の暮らしに憧れたのも、きっと自然と寄り添い、まだ暗闇を残した暮らしをしていたからなんじゃないかと思います。
そんな暗闇を生きる妖怪への愛、ひいては、暗闇を排除せずに生きてきた、本来の人間の生き方への愛情を作品の数々から感じました。
にじみでる水木さんの人柄
筆で人生の格言とゆるーい鬼太郎たちの絵が描かれた作品もありました。
書かれていたのは「好きなことをしよう」「なまけものになろう」などなどの温かい言葉。
でも、展覧会の最後で流れている水木さんの映像を見てたら
「水木サンはなまけものに見えるけど、実はものすごい努力家なんだよね」
というようなことをおっしゃってました。
思わず「どっちやねん……!!なまけものになれって言ってたのに!」と思ってしまいましたが、こういうつかみどころのない、そして茶目っ気のある水木さんの性格も、きっと妖怪たちににじみ出ているのでしょうね。
だから水木さんの妖怪たちは、怖いけど可愛くて(ほんとに怖いのもある)、不思議で、憎めない、愛されキャラたち。
その映像では2015年に亡くなられた水木さんのことを、「大好きな死後の世界に探検に行った」と表現していました。
ものすごく素敵な言葉だし、ほんとにそうなんだろうなぁって気がしてきます。
妖怪からも愛されている
ぶっちゃけ、これはある。
水木さんの次女、水木悦子さんのエッセイ(『水木しげる 日本の妖怪 世界の妖怪』平凡社)によると、水木さんはイースター島の現地ガイドの人に「霊力がすごい」って言われたらしいです。
水木さんは実体験で妖怪をたくさん見てきた人だし、もう絶対妖怪さんたちの方から寄ってきてますね。ネコの寄ってくる動物写真家・岩合さんのように。そんでそのパワーもきっと、キャラクターたちに注入されてますね。
さいごに
妖怪研究家として調査を重ね、数多の妖怪伝説を集め……その膨大な知識に魔法をかけて、たくさんの魅力的なキャラたちをこの世に遺してくれた水木先生。
妖怪はもちろん、水木さんにしか描けない壮絶な戦争体験の漫画や、奇人変人の物語もあります。まちがいなく後世に残る偉業です。
そんな偉業の原動力こそ、妖怪や暗闇の世界への愛情。やっぱり「好き」って気持ちは大切だ!!
とりあえず「ゲゲゲの女房」、放送当時ちゃんと全部見ていなかったので、昨日からAbemaTVで見ています。めちゃめちゃ名ドラマじゃないか……(今更)
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