先日、「トイ・ストーリー4」を観ました。二回。
怖くて可愛いアンティークな女の子のお人形、「ギャビー・ギャビー」ちゃんにむしょうに惹かれてしまい、二回目はギャビーのために観ました!!

私自身はこどもの頃はお人形で遊んでいたものの、物心がつくにつれてなんとなく「人形怖い」と思うようになって、いつしか疎遠になってしまいました。(「麻呂の人形」である雛人形は別)
思うに、あんなに人間っぽいのに、生きていそうなのに、動いたりしゃべったりしないところがかえって怖い。(動いても怖いですけどね……!)
そんなこと言いながらも、博物館などで人形を見るのは結構好きで、アンティーク人形の展示があったらわりと見ます。
怖いのに、いつも心のどこかで惹かれてしまう。
そんなお人形の、素敵な話があったのを思い出しました。
和風「トイ・ストーリー」、梨木香歩さんの『りかさん』という本です。
『りかさん』はこんなお話(ネタバレなし)

「リカちゃん人形」がほしかったようこちゃん。
それを聞いたおばあちゃんが人形を贈ってくれたが、「りかさん」という名前の市松人形だった……。

「りかはりかでも、りか違いなんですけどーーー!」と残念がるようこちゃん。
しかし「りかさん」は、人間と心を通わせる事ができる、心優しいお人形だった……!

りかさんとお話するようになってから、第六感が冴えて他の人形たちのおしゃべりも聞こえるようになったようこちゃん。
家にある雛人形たちはなんだかどよーんとして仲が悪そうだし、座敷童子みたいなのまで棲みついて何やら泣いている。一体何が……?
りかさんとようこちゃん、それにおばあちゃんも乗り出して、人形たちの秘密に迫る……!!
ってな感じのお話です。謎が気になるのと、個性強めなお人形達の台詞が面白くてスイスイ読めます。
こどもも楽しめそう(一部ショッキングな場面はありますが)な、短くて読みやすいお話。だけど、実は梨木さんの深ーいメッセージが随所にちりばめられており、大人になるほど心に沁みるお話なのです……。

ちょっと悲しいところもあるけど、読後には心が温かくなるよ!
日本の人形は、「吸い取り紙」のような存在
「トイ・ストーリー」のおもちゃたちはまるで人間のように生き生きとしゃべりますが、『りかさん』に出てくるお人形(りかさん以外)は、いかにも人形らしい「型にはまった」言葉でしゃべります。
たとえば……ようこちゃんちのお雛様は、


というつぶやきをずーっと繰り返しながら、泣いている。
同じことを繰り返すの、ちょっとホラーですよね(笑)ほかにも、やたらと時代劇がかっていたり。なんか、人間とは違うノリなんですよ。
でも、いかにも人形がしゃべったらそんな感じなんだろうなぁって喋り方で、不思議と納得できてしまうのです。
しゃべる内容も、前の持ち主の記憶を再現しているだけだったりします。
お話の中の、おばあちゃんの台詞。
人形に性格を持たせるのは簡単だ。人形は自分にまっすぐ向かって来る人間の感情を、律儀に受け取るから。
人形の本当の使命は生きている人間の、強すぎる気持ちをとんとんと整理してあげることにある。
(中略)
いいお人形は、吸い取り紙のように感情の濁りの部分だけを吸い取って行く。
お人形が、持ち主の「鏡」のような存在であることは、きっと世界共通でしょう。
「トイ・ストーリー」に出てくるウッディたちも、持ち主であったアンディの愛情を受け取って、とても仲間思いだし、いつも子供に寄り添おうとしますよね。
日本の人形ももちろん「鏡」ですが、それ以上に「吸い取り紙」のように人間の穢れを吸い取ったり、人間の災厄を身代わりとなって受けるという役目があるのです。
↓下記レポにも穢れを吸い取ってくれる「人形(ひとがた)」が登場しますよ〜。


なのでもともとの日本の人形は、「こどもに寄り添う」というよりも「人の身代わりとなる」要素が強いのかな。「流し雛」のように川に流されるということもありますしね……。もちろん、こどもと遊ぶためのお人形もいますが。



人形(おもちゃ)に対する、文化の違いが面白いですね!
じわじわと心に沁みる「おばあちゃん」の言葉
梨木さんの作品は、いつも自然や植物の描写が美しいです。
この作品でも、一見関係なさそうに見える「人形」と、植物を使った「草木染め」の話が絡み合っていきます。
植物は、秘やかに誰にも見えない色を隠し持っているのだろうか。まるで人形に詰まった思いのようだ、とようこは思った。
「草木染め」が大好きなようこちゃん。草や木を煮ると、思ってもみなかった色がつぎつぎに出てくる。それがその植物の持っていた物語の色。
人形にも目には見えない思いが詰まっている。ようこちゃんはりかさんと一緒に、人形たちの見えない思いをつぎつぎと聞き出していきます。
嬉しい思いもあれば、悲鳴をあげたくなるほど悲しくて心が痛い思いもある。
その痛みに直面したようこちゃんに、おばあちゃんはこう言います。
自然の力を使って染める草木染めは、人形から思いを聞き出すようなもの。
そうすると、どうしても、アクが出るんだ。自分を出そうとするとアクが出る、それは仕方がないんだよ。
だから植物染料はどんな色でも少し、悲しげだ。
簡単さ。まず、自分の濁りを押しつけない。
それからどんな「差」や違いでも、なんて、かわいい、ってまず思うのさ。
おばあちゃん、やさしい言葉だけど、なんだかすべてのことに通じそうなことを言っています。
人と人とのコミュニケーションでも、あるいは、こういう文章を書くときや、絵を描くときなんかにも、とても大事なことのような気がする。
だからこの言葉を引用してみたんですけど、正直なところ、今の私にはこれをうまく「昇華」できないんです。
読むたびに受け取るものが変わる
じつはこの『りかさん』という本、人生の折々で思い出しては、何度か読み返しています。
最初は人形たちの不思議な世界の方にばかり気を取られていましたが、今回読み返したことで、以前よりもおばあちゃんの言葉が心に沁みる……!


「媒染を変えたら、出てくる物語も違うんだろうか」
「おまえの心持ちによっても変わるだろうよ」
そう、読む側の心持ちによっても、受け取るものが変わってくる。まさに『りかさん』という本自体が、「人形」や「草木染め」のよう!



次に読むときは、どんな物語を受け取るのかな?
さいごに
『りかさん』、人生の中で長いお付き合いができるお話です!
なんだか、うちの雛人形のことを思い出しました。
とっても童顔のお雛様たちなんですが、気づけば自分が描く「麻呂」の顔のバランスが、彼らにどんどん近づいていっている気がする……。


人形は人間の「鏡」ですが、逆に人形に引き寄せられていくってこともあるのかな?
りかさん (新潮文庫)posted with amazlet at 19.07.21梨木 香歩
新潮社
売り上げランキング: 66,484
Amazon.co.jpで詳細を見る
コメント