安養院……鎌倉にある、ピンク色のつつじが有名なお寺です。
こちら、あの頼朝の奥さんである北条政子さんが、亡き夫の冥福を祈って建てたお寺を場所を替えて再建したお寺だったりします。
今年の五月ごろ、北条政子さんのことを考えながら、つつじを観に行ってきましたよ。
北条政子さんは、鎌倉幕府を開いて武士の世の中を作った頼朝さんを支える頼り甲斐のある妻として、とても強い女性!というイメージ。でも……
強い女性だって、悲しいことは悲しいものなのよ……
そう、彼女の人生を見てみると、ものすごく悲しいことも多かったであろう人生。
夫も、四人の子供たちも、病気や不運なできごと、暗殺などによって、自分よりも先に命を落としてしまっているのです。
とくに長男の頼家さんや次男の実朝さんの暗殺に関しては、自分の家族である「北条氏」がその権力を安定させるための、内部闘争が深く関わっています。
それでも、政子さんはいつも「政治家」として、北条氏が末長く繁栄できるような手を尽くし続けました。
家族をどんどん失っていって、末っ子の実朝も暗殺されてしまったあと……鎌倉幕府と朝廷の戦である承久の乱が起きたときのこと。
歴史史上初めて、朝廷に刃を向けねばならないという事態に、動揺する大勢の家来たち。彼らを集め、しずかに、しかし力強く語りはじめる政子さん。
故頼朝公がくださった山より高く海より深い御恩を思い出してごらんなさい。その御恩に今こそ報いる時ではないですか。
政子さんの力強い叱咤激励の演説のおかげで、武士たちのモチベーションを見事に復活。承久の乱に勝利した鎌倉幕府は、百年以上続いたのでした。
「政治家の妻」……いや、彼女自身が「政治家」として、非常に冷静……ときには家族の情さえ、押し殺せるほどに。
そんな政子さんですが、頼朝さんの「妻」としては、燃える炎のような気性を感じさせるエピソードも多いのです。
そもそも、頼朝さんとの結婚がまず、親の反対を押し切ってのかけおち。
そんな頼朝さんが、政子さんが妊娠中に不倫をしていたことがバレてしまったあかつきには……
愛人の家を破壊してやったわ!
妊娠中の浮気はひどいよね……。
彼女の人生を見ていると、怖いくらい冷静な一面と、燃える炎のように情熱的な一面を併せ持った女性のように思えます。
両方の面があってこそ、頼朝さんの意思を引き継いで鎌倉幕府の創立をなしえた「北条政子」だったのでしょう。
「笹りんどう」の家紋とつつじの花って、こうして見るとちょっと似てるわね
「笹りんどう」は名前の通りりんどうなんですが、この家紋つつじのとなりにあるとつつじに見えなくもない。なんだか不思議。
政子さんが人生の半ばで失ってしまった、大切な家族たちはみんな「笹竜胆」の源氏。
それを囲むように、あざやかで強い色ながらやさしく咲いているつつじの花は、やっぱり政子さんを彷彿させます。
とてもとても、静かなお寺でした。
これまでいろいろな史跡を訪れてきましたが、戦があったところでさえ、長い時を隔てた今では、静かで穏やかな場所になっているんですよね。
風景は政子さんの時代とはまったく変わっているのだろうけど、青空と、花と、お寺にあった政子さんのお墓は変わらずにあるもの、でしょうか。
そして旅する私たちは、そういう場所にいて、はるか昔を燃えるように懸命に生きた政子さんの想いを想像し、感じることができます。
最強の尼将軍・政子さんだって、私たちと同じように、楽しかったり、悲しかったり、悩んだり、寂しかったり、していたのでしょう。
世の中は常に変化していくけれど、こういう時の流れが雄大な場所では、かえって変わらぬものの方に目がいくのでしょうか。
基本的に無常の世の中なので、時が経つほどに寂しいことも増えていくものですけど、こういう史跡散歩は八百年経っても変わらないものもあるよってことを教えてくれる気がして、心が落ち着きます。
花の美しさが八百年、変わらないで欲しいなぁっていう歌↑
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