【手のひらの玉手箱】梅雨の和菓子

今年の梅雨は暑いんだか涼しいんだか、よくわからない感じですね。

でも、和菓子を買ってみたら涼しげなゼリー系ばかり選んでしまったので、例年通りちょっとじめっとした梅雨なのかな、と思います。

見た目で選んだのですが、偶然二つとも梅の味。あの爽やかな酸味がこの季節にちょうどいいかもしれません。「令和」も梅にあやかった元号ですしね!

(そういえば「梅雨」にも「梅」の字がありますね!梅の実が熟す時期だからとか……なるほど!)

そんなわけで、「叶匠壽庵」さんのさっぱりとしたお菓子を二つご紹介します。

郷の氷室(さとのひむろ)<梅>

梅の実の甘露煮が入った梅味のゼリー。竹筒を模した器が目にも涼しげです。

半透明の器に透明のゼリーが入っているなんて、なんかちょっと危うい美しさでドキドキします。日の光に透かしながら頂くのもいいですね。いや、梅雨だし雨音を聞きながらでもいいかも。

麻呂という生き物は透け感を使いこなすのが大好きなので(例えば「御簾」とか、下の着物の色をちょっと透かせる「かさね」とか)、平安ギフトにしても喜ばれそうな一品。

ゼリーは程よい酸味、梅の実は甘くておいしいです。蒸し暑い日が増えてくる時期ですので、プチ夏バテにも効きそう。

梅の実は6月が旬なのだそうですね。ちなみに6月前半、鎌倉の東慶寺では花菖蒲を眺めながら梅のジュースを楽しめます(期間限定、今年は6月1日〜16日)。

標野(しめの)

標野とはなんぞや、と言うと

このお方(ぬかたのおおきみ)が詠んだこんな歌に由来しています。

茜さす 紫野ゆき 標野ゆき 野守は見ずや 君が袖振る

額田王

時は飛鳥時代。美しすぎる天才歌人・額田王は大海人皇子(おおあまのおうじ/のちの天武天皇)と幸せな結婚生活を送っていましたが、美しすぎたために大海人皇子の兄である天智天皇に嫁がされてしまいました。

そんなある日、みんなで薬草を採集する「薬狩り」をしているときに、天智天皇もいるってのに元旦那の大海人皇子が額田王に堂々と手を振ってきたので「もう!そんなに手を降ったら誰かに見られちゃうでしょ!」と詠んだ歌。

この歌は宴会の座興で詠まれたものなので、本当の気持ちというより、ネタ的な意味合いも強いそうです(なんて危ういネタだろうか……)。

そんな歌の舞台である、茜色の光の射す標野(一般の人が入れない、天皇家や貴族専用の野)をあらわしたお菓子ですね。

茜色、つまり夕日の色なのでしょうか?なんとも絶妙な色をしたゼリーが、この歌の情景を呼び起こします。(「茜さす」は「紫」にかかる枕詞なので言葉通り赤いわけではないかもしれませんが、このゼリーの色を見ていたらそんな夕焼けの景色でも良い気がしました。)

この歌は宴会のネタで詠んだとされていますが、額田王の真意はわかりません。自分の意思とは関係なくラブラブだった旦那さんと別れさせられて、本当はどんな気持ちだったんでしょうか。

そう思うとこの茜色もなんだか切なく思えてくるし、梅の味だから前述の「郷の氷室」と似た味ではあるのですが、この歌物語が加わると「切ない甘酸っぱい味」に思えてくるから、和菓子の銘って本当に奥深いです。

さいごに

同じ梅味でも「郷の氷室」と「標野」、世界観が全然違いますね。

かたや涼しく爽やかな梅の味、かたや切ない恋の歌を思い起こさせる梅の味。

和菓子は見た目のデザインと銘、二つ合わさって世界観をつむぎだす総合芸術だと思います。

今回の「標野」のように和歌が元ネタになっている和菓子もたくさんあることでしょう。

和歌が元ネタといってもすべての言葉を引いてくるわけではなく、「標野」のように和歌の中の一言だけ持ってきて銘にするというのが多い気がします。

元ネタの和歌を知らなければ意味がわからないままになってしまいますが、元ネタを知ると「標野」の2文字だけで上記の物語が一気にひろがり、和菓子とのハーモニーを奏でます。

この省エネ感こそ、和歌、ひいては日本文化が持っている特色じゃないかなぁと思います。

ひきつづき、和歌が元ネタの和菓子も探していきますね!

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